「プーチンが暗殺されたら核が発射される!😱」
という話を、この数日で何度も聞きました。
しかも、全然分野の異なる複数の人からです。
というわけで、調べてみました。
結論から言うと、これガセネタです。
憶測だけで書かれたひどい記事です。
不安を煽ってPVを稼ぐやり口ですが、良いか悪いかは別として、まぁ見事な手法です。
情報リテラシーを鍛える格好の教材でもありますので、ちょっと解説してみたいと思います。
ウワサの元ネタはYahoo!ニュース
ウワサの元ネタは上記と思われます。
Yahoo!ニュースに2022年3月9日に掲載されているので、広く知られたのかなと思います。
「プーチン 暗殺 核」のキーワードで検索するとすぐ出てきました。
この記事の構成は以下の通りです。
プーチンは世界の予想を裏切り続けている
↓
そんなプーチンだから、核も使うかもしれない
↓
「死の手」という各報復システムがある
↓
「死の手」のシステムは現在、AIが核使用の判断を下す
↓
日本はロシアに「敵国」認定されている
↓
ロシア保有のICBM(大陸間弾道ミサイル)は日本のミサイル防衛網を無力化する
「事実」と「憶測」を織り交ぜ、読者にストーリーを補完させる巧妙な文章術
この文章構造、事実と憶測が織り混ざっており、さらに後半は事実だけを並べることにより、読者にストーリーを補完させるという非常に巧妙な文章になっています。
先に示した文章構成を「事実」と「憶測」に分けてみますね。
1. プーチンは世界の予想を裏切り続けている(事実)
↓
2. そんなプーチンだから、核も使うかもしれない(憶測)
↓
3. 「死の手」という核報復システムがある(事実)
↓
4. 「死の手」のシステムは現在、AIが核使用の判断を下す(憶測)
↓
5. 日本はロシアに「敵国」認定されている(事実)
↓
6. ロシア保有のICBM(大陸間弾道ミサイル)は日本のミサイル防衛網を無力化する(事実)
いい感じで事実と憶測が織り混ざっているのがわかると思います。
文章を読んでいると分かりますが、こうやって憶測を事実で挟むと、憶測も事実に思えてきちゃうんですよね。
そして後半2つは事実なのですが、この2つだけでは日本に核ミサイルが発射される根拠にならないんですよね。
- 日本はロシアに「敵国」認定されている→敵国だからミサイルが来るとは限らない
- ロシア保有のICBMは日本のミサイル網を無力化する→これに核弾頭を載せられるという事実は無い
ただ、この2つを事実として並べられると読者は
「てことは、ロシア保有のICBMに核が載せられて、日本に発射されるかもしれない?!😱」
って思ってしまうんですよね。
これを書いた人は本当に人の不安を煽るのが上手だなと思います。
この人の文章なら30万円の布団も売れそうだ。
「死の手」という核報復システムを調べてみた
この記事の中核をなす事実として「死の手」という核報復システムの存在があります。
こちらについて調べてみました。
「核報復システム wiki」でググってみると、以下の記事がヒットします。
「相互確証破壊」の概要は以下の通り。
核兵器を保有して対立する2か国のどちらか一方が、相手に対し先制的に核兵器を使用した場合、もう一方の国家は破壊を免れた核戦力によって確実に報復することを保証する。これにより、先に核攻撃を行った国も相手の核兵器によって甚大な被害を受けることになるため、相互確証破壊が成立した2国間で核戦争を含む軍事衝突は理論上発生しない。
Wikipediaより引用
要は、両国とも核を持っていると、一方が核兵器を使用すると絶対にやり返されちゃう、ってことなんですね。
記事で紹介されている「死の手」ってのはWikipediaで紹介されている下記にあたるのかと思います。
旧ソビエト連邦およびロシアでは、米国の先制核攻撃により司令部が壊滅した場合に備え、自動的に報復攻撃を行えるよう「Dead Hand(死者の手)」と呼ばれるシステムが稼動している。
これはロシア西部山中の基地に1984年から設置されているもので、ロシアの司令部が壊滅した場合、特殊な通信用ロケットが打ち上げられ、残存している核ミサイルに対し発射信号を送ることで米国に報復するものである。
Wikipediaより引用
Wikipedia中では「Dead Hand(死者の手)」と書かれていました。
ここにはリンクが貼られていたのですが、英語版でした。
で、これを日本語訳にしていると思われる記事を見つけました。
注目したのはこの記事中の「「死の手」は今どうなっているのか」の章での下記文章。
「システムは運用が始まって以来何度か改良を経ている。まずロシアはこのシステムに、最大7000キロメートル離れた地点で発射されたミサイルを検知できる『ヴォロネジ』級レーダーなど、新しい電波探知手段を統合した。また無線信号を遮断する新興の電子戦兵器に耐え得るよう弾頭を改良した」
ミサイル発射を検知したり、報復時に無効化されないように進化しています。
「死の手」のシステムは進化していますが、正しく報復できるように進化しているようです。
指導者が殺されて発射する機能は実装されていない模様です。
今なおロシアを守り続ける「死の手」は、何度も改良を経ている。運用開始当初は人間が発射ボタンを押す必要があったが、現在は司令部の非常事態を認識したAIが核使用の判断を下す。
その判断材料の中には、最高意思決定者の不在、すなわちプーチン大統領の死も含まれている可能性が高い。
彼の死を国家の存続危機だと判断した「死の手」が、ロシア各地に配備されている約1600もの核ミサイルを一斉に発射するのだ。
プーチンが「暗殺」されたら即発射か…ロシア「核報復システム」の危ない実態(週刊現代) | 現代ビジネス | 講談社(2/3) より引用
今回の記事最大の「憶測」がこれだと思います。
他の事実や憶測には「誰が」言ったのか書かれていますが、ここには誰が言ったのか、書かれていません。
「その判断材料の中には、最高意思決定者の不在、すなわちプーチン大統領の死も含まれている可能性が高い。」
「彼の死を国家の存続危機だと判断した「死の手」が、ロシア各地に配備されている約1600もの核ミサイルを一斉に発射するのだ。」
上記2つの文章には、事実も、専門家や情報通の裏付けも無いのです。
コアになるコンテンツがこんな状態ってのは、なかなかに酷い記事だなぁと改めて思います。
「事実」と「憶測」は分けて判断しよう
今回の記事もそうですが、「事実」と「憶測」を織り交ぜて、あたかも書かれている内容すべてを事実のように誤認させる記事が本当に多く出回っています。
また、事実だけを並べて読者に誤った認識を与える手法もよく使われます。
フェイクニュースがあふれる今、この辺りのリテラシーをしっかり鍛えていく必要があるなと感じます。
私自身も注意して、家族や周囲の人にも啓蒙していきたいなと思います。
フェイクニュースに騙されないためには、こちらの記事もオススメです。
「プーチンやべぇ。この調子じゃ核兵器も撃つのでは!?」
と思いながらこの記事を読むと、すべて真実に見えるのだと思います。
そして、こんな記事を読むくらいならニュースはもう読まなくていいのかなと感じます。
マイナスの影響を及ぼしちゃうんですよね。